大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和38年(レ)287号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕そこで被控訴人主張の如く本件賃貸借契約を解約するに足る正当事由があるか否かについて考えるのに、控訴人が前記の如く本工場を増築するについては被控訴人の承諾があつたのであるから、被控訴人は右工場経営上通常生ずることあるべき騒音については当然これを予想し、これを甘受するつもりであつたものというべきであり、従つて、かかる程度の騒音は賃貸人たる被控訴人においては当然甘受すべきものであり、また近隣の者から苦情がでたとしても、賃貸人においてこれを承諾している以上、これを以て特に賃貸借の基調をなす賃貸人、賃借人間の信頼関係を破壊する不信行為ということはできないが、右騒音が賃貸人たる被控訴人の全く予期しないほど大きく、或はその後予期しない騒音を発するに至り、賃貸人自身、或は近隣の者に耐え難い迷惑を及ぼすに至つた場合には、賃貸人が工場経営について承諾を与えている場合と雖も、なお前記信頼関係を破壊する不信行為として、正当事由の一となりうるものと解するのを相当とするところ、前記認定事実と<証拠>を綜合すると、「被控訴人は控訴人が本件工場で製箱業を営むことを知りながら、その増築を承諾したものであり、控訴人は右工場増築後午前九時から午後六時まで、当初は主として釘打ちをしその後しばらくして動力鋸を購入してこれで木材を切るようになつたが(控訴人が鋸を使い、釘を打つて箱を製作していることについては当事者間に争がない)、その騒音は近隣の病人の昼寝を妨げる程度のものであつたこと、もつとも、同人からは控訴人に対し右騒音につき苦情の申込があつたが、被控訴人からは右騒音については何等の申入もなく、昭和三六年四月には従前の賃料一ケ月金二、八〇〇円を一ケ月金四、〇〇〇円に増額し、更に昭和三七年夏頃には更に右賃料を一ケ月金六、〇〇〇円に値上げする旨申入れたが、控訴人においてこれに応じなかつたので、被控訴人は控訴人に対し前記の如く無断増築を理由に本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなし、本件家屋の明渡を求めるに至つた」ことが認められ……。右認定事実によると、控訴人が本件工場で製箱業を営むにつき発生する騒音は被控訴人が当切より予期していたものとして、被控訴人においては特にこれに対し意に介していなかつたことが明らかであるから、控訴人が右工場経営のため若干の騒音を発したとしても、それは賃貸人たる被控訴人との信頼関係を破る不信行為というに由ないものである。また、被控訴人は、右騒音のためノイローゼになり、このため勤務先会社を解雇されたと主張するけれども、被控訴人がノイローゼになつているとしても被控訴人は控訴人の作業時間中は会社に出勤中であつたものと推測されるので、騒音が右ノイローゼの原因とはいえない。そうだとすると、本件賃貸借契約を解約するに足る正当事由が存するものとはいい難く、右解約申入が猶予期間を経過しても、その効力を生ずる余地はない。(大野千里 戸根住夫 大下倉保四朗)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!